コラムニストの雑記帳
続・追加経済対策

 八百屋の店頭で蕪を高々と掲げ「株よ上がれ!」と声を張り上げるパフォーマンスを演じたのは故・小渕恵三元首相。小渕優子少子化担当相の父親だ。
 首相時代の小渕氏は「軽い」という印象を与える政治家だったが、6兆円規模の減税措置を含む史上最大規模(7兆6000億円)の1998年度第3次補正予算を編成した直後、YKKの3人組(山崎拓・加藤紘一・小泉純一郎)に、こう語りかけたという。
「大変なことをしたと思う。この後始末はあんたたちの世代でやってもらわなきゃならんかもしれないな」(「検証 経済迷走」=西野智彦著、岩波書店刊=)
 政府・与党が合意した2009年度第1次補正予算案の真水(財政支出)は15兆円。98年度第3次補正の2倍に達し、当初予算と合わせた今年度の一般会計総額は100兆円の大台を突破する。大盤振る舞いの陣頭指揮を執る麻生太郎首相には、小渕首相のような繊細な感性はどうやら持ち合わせていないみたいだ。
 話を進める。
 15兆円の真水は、「雇用対策」「金融対策」「低炭素革命」「健康長寿・子育て」「底力発揮」「地方自治体への配慮」等に振り向けられていくが、規模から入る予算編成作業は、悪のり・便乗に看板の掛け替えと「何でもあり」の危うさをはらむ。
「あの記事、読んでくれました?」
 東大政策ビジョン研究センターの坂田一郎教授からこう訊かれ、ビジネス情報検索サービス「キジサク」で、3月31日付の日刊工業新聞「時流読流」欄に掲載された〈定着するか シルバー・ニューディール 東大が提唱〉というタイトルの記事を探した。
 日刊工の井上渉編集委員が執筆したこの記事によれば、若者や中年を標準として築いてきた社会を、高齢者を標準とした社会に再構築する「シルバー・ニューディール」を東大政策ビジョン研究センターが提唱。高齢化社会の多数派である高齢者をが安心して暮らせる社会に設計し直すことで、「新たな技術に基づいた商品やサービスの開発が期待でき、需要創造や雇用拡大が見込める」という。
 この記事には坂田教授も登場、世界で最も早く少子高齢化が進む国として「日本に続き高齢化社会を迎える世界の国々に対し、課題解決のモデルを示す」と構想の壮大な狙いを明かしている。
 15兆円の真水の使い道に知恵を絞る霞が関と永田町にこうした発想があれば、ポスト不況の展望も開けてくるのだが。
追加経済対策
 超大型の2009年度補正予算案を今月中に国会に提出、早期成立を目指す。民主党が審議に抵抗すれば、解散もあり得る。小沢民主党代表の資金管理団体を巡る政治資金規正法違反事件という敵失を衝いて、麻生首相が攻勢に出た。
 的確な分析で定評のある政治アナリストによれば、麻生首相は一日でも長く首相の座に居続けたい、少なくとも7月のG8サミット(イタリア)までは首相を辞めるつもりはないそうで、「そのときの状況で判断する」というのが首相の底意。選択肢は幾つもあって、要するに何も言っていないに等しい、そういうことだろう。
 一方、補正については「速やかに成立させる」と言っているので、政府・与党幹部への指示通り追加の経済対策を今月中旬までにまとめ、直ちに補正予算案の編成に着手、という手順で作業が進むことになるが、自民党の対策(「日本経済再生へのプログラム」)は既にまとまっている。政府の追加対策の柱となる成長戦略も、新聞やテレビが原案を既報、めぼしいアイデアは取り敢えず出尽くした。本当に出尽くしたか?
 前にも書いたが、こんなアイデアもある。
 沖縄を除く電力9社は電線でつながっていて、電気が足りない時は余っている会社から融通を受ける相互融通を行っている。
 しかし、東と西で周波数が異なるので、50Hzの東京電力が60Hzの電力会社(中部・北陸・関西・中国・四国・九州)から電気を融通してもらうには周波数変換所(FC)で50Hzの電気に変換しなければならない。
 ところが、FCは佐久間(Jパワー・静岡県)と新信濃(東京電力・長野県)、東清水(中部電力・静岡県)の3カ所しかなく、しかもこの“関所”を通れる電気は約100万kwが限度。それ以上の融通が可能でも物理的に送れないのである。
「電力供給の『危機』に備えて設備を増強してはどうか」
 電力不足が話題になるたびにこんな声が上がるが、仮に変換能力が50万kwのFCをつくろうとすれば同規模の出力の火力発電所を建設するくらいのコストがかかる。稼働率が極めて低く緊急時にしか利用しない“遊休設備”をこれ以上増やすことに電力会社は二の足を踏み、話は立ち消えになる。
 しかし、新潟県中越沖地震で東電柏崎刈羽原子力発電所が全面停止を余儀なくされたように、天災や人災などで大規模電源が動かなくなり、50Hzあるいは60Hzのいずれかで電力供給に支障を来す事態は起こり得る。
電力の安定供給を確保するための公共投資は「未来の成長力強化」という経済対策の目的とも合致する。民間の電力会社の負担が重いというのであれば、国の電源特会(電源開発促進対策特別会計)でFCを建設し、公共財として活用すればいい。
 繰り返すが、先進国では唯一、「1国2周波数」という周波数の壁を持つ日本にとってFCの増強は避けて通れない課題である。
“有識者"会合
経済危機克服のための有識者会合が16日から21日まで首相官邸で開かれ、10のテーマについて84人の“有識者”が意見を述べた。麻生首相は、随分と大仰な会合を開いたものだ。
 これだけの数の“有識者”の意見を、政府はどう消化するのか。単なる聴きっぱなしに終わらせず、有益かつ霞が関の発想を超えるアイデアは、4月にとりまとめる追加経済対策に「反映させる」というが、持ち時間は1人あたりたった数分。意見を交わす場面はあっても平面的なやり取りで、突っ込んだ議論にはならなかったようだ。
 パフォーマンス狙いなら、短期集中の合宿方式や、1回の会合を半日がかりでやるとか工夫の余地があっただろうし、霞が関を超えるアイデアを募集するなら数を広げて文書で募集する手もあった。いずれにせよ、見せ方も中身も中途半端な会合である。
 ところで、この有識者会合を経済財政諮問会議の民間議員の面々はどのような思いでみているのだろう。「なめるな!」と辞表をたたきつけるかと思いきや、有識者会合の会場に席を与えられ、“有識者”の意見を拝聴する側に回っていた。 奇妙な光景である。
酔い醒めの冷水

 これが日本の政治の現実である。
 酒を呑まなければバランスを保てない政治家がいて、危機管理が問われているにもかかわらず危機を管理できない政治家がいる。
 前者が中川(前)財務相であり、後者は麻生首相。元凶は中川氏だが、首相は今回の問題で2つの致命的なミスを犯した。
 1つは、言うまでもなく中川氏の処分に関するミス。もう1つは、中川氏の後任に与謝野経済財政・金融担当相を起用したことだ。
 今が「戦後最悪、戦後最大の危機だ」(与謝野氏)という状況にあるのなら、財政再建のスケジュールを遅らせてでも大掛かりな経済対策を打ち出さなければならない。そのためには、経済対策の責任者(経済財政担当相)と財務相がリング上で死闘を繰り広げる場面も必要だが、麻生氏は対峙する2つのポストを1人の政治家に委ねてしまった。
 この兼務、いい加減にやれば務まるかもしれないが、いまはそれが許される状況ではない。かといって、与謝野氏が「戦後最大の危機」を意識して任務に忠実になれば、行き着く先は「股裂き」。人事と政策を切り離して考える麻生の思考回路は、やはりマンガということか。
   * * * * *
 今朝(17日)あたりから新聞やテレビが、鬼の首を取ったように「中川泥酔」問題を洪水の如く報じているが、第一報(「財務相、質疑かみ合わず」)まで遡って日本のメディアの対応を見ると、スポーツ紙と一部民放を除けば何をかいわんや、である。
 海外メディアの反響の大きさに慌てて、大きく報じることにした。この指摘に堂々と反論できる国内メディアがどれだけあるだろう。
 中川氏に同行した記者も情けない。
 彼が大酒飲みで、かつ薬の服用でヘロヘロになることを知っていながら会見の際に誰一人として「酔っているんですか?」と質せなかった。
 

憂鬱
 日本の総理大臣はけっこうキツい仕事である。
 衆参の予算委員会が開かれている間、委員会審議に拘束され、野党委員との論戦に応じなければならない。
予算委は、ありとあらゆる問題を扱うので、予習しておく必要があるが、多忙な職業なので勉強の時間を十分に取ることができない。
 勉強不足のまま委員会に出席、朝から晩まで質問攻めに遭っているうちに、ボロがでたり答弁に矛盾が出てきて失言や妄言、舌禍騒動に発展していくことも。委員会への出席義務を負い、一問一答の難行苦行を強いられる首相は日本ぐらいのもんだろう。
 次の総選挙で連立与党が敗れれば、民主党の小沢代表が政権の座に就く可能性が高いが、小沢氏は週に一度のクェスチョン・タイムすら嫌がり、重要法案などの採決を行うと分かっていても国会(衆院本会議を)サボる。
 なったらなったで、らしく振る舞うのだろうが、首相の日課である日に2度の番記者インタビューも小沢氏は嫌がるだろうし、首相になっても雲隠れのクセは抜けないかもしれない。そんな政治家に首相が務まるのだろうか、と疑問に思う人は少なくないだろう。
 昨日の新聞に、政権獲りが現実味を帯びてきた民主党議員の間に「マリッジ・ブルー」ような憂鬱な空気が漂い始めている、という記事が出ていた。「政権を奪取できたら」と、あれこれ考えているうちに心配になってくるらしい。
 悩みがあるのは健全な証拠だが、悩んでいる余裕などないはずである。